2012年6月1日金曜日

東京都青少年健全育成審議会 番外編 もうちょっと詳しく書いてみるテスト

これまでの観察および調査の中でいろいろ細かい部分がたまってきたのでここらで一気出ししときます。

指定6回の「勧告」措置って何なのか? もうちょっと詳しく

東京都青少年健全育成条例にはそれを施行するための具体的な手段や手続きを示した「施行規則」があります。

東京都青少年の健全な育成に関する条例施行規則
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/08_jyourei/08_p2.pdf

問題の「過去1年間の指定の累積が6回の場合に都知事が行う勧告」について書かれているのは第9条の3の2~3の記述になります。

東京都青少年の健全な育成に関する条例
(表示図書類に関する勧告等)
第9条の3 知事は、指定図書類のうち定期的に刊行されるものについて、当該指定の日以後直近の時期に発行されるものから表示図書類とするように自主規制団体又は図書類発行業者に勧告することができる。
2  知事は、図書類発行業者であつて、その発行する図書類が第8条第1項第1号又は第2号の規定による指定(以下この条において「不健全指定」という。)を受けた日から起算して過去1年間にこの項の規定による勧告を受けていない場合にあつては当該過去1年間に、過去1年間にこの項の規定による勧告を受けている場合にあつては当該勧告を受けた日(当該勧告を受けた日が2以上あるときは、最後に当該勧告を受けた日)の翌日までの間に、不健全指定を6回受けたもの又はその属する自主規制団体に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
3  知事は、前項の勧告を受けた図書類発行業者の発行する図書類が、同項の勧告を行つた日の翌日から起算して6月以内に不健全指定を受けた場合は、その旨を公表することができる。
4  知事は、前項の規定による公表をしようとする場合は、第2項の勧告を受けた者に対し、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。
5  知事は、表示図書類について、前条第2項から第4項までの規定が遵守されていないと認めるときは、図書類販売業者等又は図書類発行業者に対し、必要な措置をとるべきことを勧告することができる。

当時あまりうまく読めてなかったんですが、指定する図書が定期刊行誌だった場合はその次の発売号を表示図書(要するに18禁マークつき)にするように勧告ができます。
都知事による「勧告」がどの程度の意味、強制力を持つのかは専門的な分野の方に任せることにします。

これを施行するにあたって具体的にどうするかを施行規則で探してみると。

(表示図書類に係る勧告の方法)
第20条 条例第9条の3第1項の規定による勧告は、勧告書(別記第1号様式)を交付して行うものとする。
2  条例第9条の3第2項の規定による勧告は、勧告書(別記第1号様式の2)を交付して行うものとする
3  条例第9条の3第5項の規定による勧告は、勧告書(別記第2号様式及び第3号様式)を交付して行うものとする。
(図書類発行業者の公表)
第20条の2  条例第9条の3第3項の規定による公表は、次に掲げる事項を広く都民に周知する方法により行うものとする。
一 図書類発行業者の氏名又は名称及び住所
二 勧告の内容
三 前二号に掲げるもののほか、知事が必要と認める事項

勧告書の中身については上記の施行規則の15ページから添付されてますが、結局のところ「勧告内容(とるべき措置)」については白紙のままになってます。やっぱり書いてもらわないことにはわからないということで。
それでもさらに不健全指定を受けた場合(第9条の3)に出る「広く都民に周知する方法」というのはおそらく都知事の記者会見やMXテレビのニュースなどを利用する方法なのだと思います。
きっとあの都知事なら好き放題言うんでしょう。どちらかというと聞きたいです。いや聞くと気分悪くなりそうなので書き起こしになったら(会見はテキストでも読めます)読みたいです。

青少年課長の「報告」は「審議会の審議の結果」なのか

〇青少年課長 それでは資料の20 ページをご覧ください。4 月処理分の都民の申出でございます。
 まず1 番。メールによる申出が1 件ございました。内容は「性的な描写のあるテレビアニメについて」で、兄と妹の近親相姦シーンを含む5 作品につきまして、都民から指摘がありました。1 作品はDVD になっているものを購入して確認を行いました。他の4 作品についてはインターネットの動画で確認いたしました。このうち「ヨスガノソラ」というアニメが兄と妹の近親相姦を描いております。ただ、社会的に是認されているかのように描いたり、あるいは必要以上に反復して詳細に描いているというものではありませんので、新基準等には該当しておりませんでした。その他のアニメ4 作品につきましては、いわゆる旧基準の対象となりますが、いずれも該当するものではありませんでした。

今回の「ヨスガノソラ」の件は審議会の議事録上での位置づけは「都民からの申出とその処理の報告」になります。
つまり実際に「ヨスガノソラ」を審議会の委員の皆さんは視聴することもなければ指定するか否かの意思表示すらしていないわけです。仮に異議がある場合はたいていこの時点で質問や確認が出ますが、今回はありませんでした。
さて「ヨスガノソラ」は本当に指定を免れたのでしょうか? これは東京都のやり方というか審議会というものの意思決定がどこまで及ぶのかよくわからないのでなんとも言えません。

ただ構造的な面を言うと、審議会は青少年課によって諮問された図書についての判断を下す場です。青少年課が提出しない図書はそもそも審議されませんし、諮問の結果の答申として知事に渡りませんから指定もされないことになります(「指定」は「知事」が行います)
そして私が見ている限りでは提出された諮問図書の指定率は100%です。
この仕組みの本丸はどこなのか、おわかりいただけたでしょうか。

そもそも「ヨスガノソラ」って放送から1年半も経ったアニメが申出の対象になるのか

さらに言うと、「ヨスガノソラ」のBD最終巻(問題の「穹編」)の発売日は2011年4月6日なので新基準が施行される2011年7月1日より前ということになります。
付則によれば、この時期のものは新基準としては対象外になるはずなのですが……

附則(平成22年条例第97号)
4  新条例第8条第1項第2号の規定(図書類の指定に係る部分に限る。)は、平成23年7月1日以後に発行された図書類について適用し、同日前に発行された図書類については、なお従前の例による。

東京都の職員はなぜこのアニメを新基準に照らし合わせて報告してしまったのでしょうか? 別にそんなことを抜きにしてもあのアニメにはエロアニメより薄いとはいえ性交シーンがあり、旧基準で判断できたはずなのに。

この辺については先代の青少年課長が残したこのコメントが印象的だったので第602回(2010年7月)議事録より

○会長代理  ただ、ちょっと確認してもよろしいですか。その売れ残っているものが残っているとしても、遡って指定するというのはこの条例の趣旨に反するのですか。
○青少年課長  特に条例上、遡ってはいけないというふうには書いていないのですけれども、この審議会自体が一月に一度ペースでやっているということを考えますと、あえて、例えばたまたま見つけた10年前の本をこちらにかけることについて、それが適当かということでして、実際に指定した後に区分陳列をしていただくということを考えますと、たまたま見つけた古いものよりは、今、新しい本として出しているものを早く移していただきたいということになりますので、あまり古いものを指定するよりは、簡単に言えば、健全審を1~2回経たような後でも、指定するというのは、安定性からいって好ましくないのかなとは考えております。それを禁じたことは特にないですけれども。
○会長代理 10年前はともかく、幾ら1ヶ月に一度やっているとしても。ただ、業界慣行として1ヶ月ぐらいで消えるものだというのは、それはそうでしょうけれども、2~3ヶ月並ぶのが見逃されているという可能性はないわけではないですよね。全部調べるわけではないでしょうから。
○青少年課長 書店を全部悉皆調査しているわけではなくて、ある意味では、たまたま入ったところですので、置かれている書店と置かれていない書店がある場合を考えますと、ある意味、一月なり二月ぐらいでは見逃してしまうものもあるかとは思っております。
○会長代理 条例上、何か規定があるということはないと。
○青少年課長 そういうことではございません。都の健全審の趣旨を考えまして、あと、■■委員が今おっしゃった入替わりがわりと早いということを考えますと、通常はこういった運用できているというところです。

このときの青少年課長はすでに異動して今回の青少年課長とは別人なのですが。
結局何が言いたいかというと「どんなに昔のものであろうと、指定されるべきものが区分されるべき場所に置かれていなかったら条例の主旨には合わない」ということですね。
法の不遡及の原則からするととんでもない話ですが、古い法律でおkにだったものだから今の法律は関係ないでは済まされないのがこの界隈でして、実際児童買春・児童ポルノ処罰法ができてからそれまで流通していたさまざまなその手の本が発禁となって消えていった(まぁ流通・販売を禁止したわけですけど)わけで、全然不思議じゃないんですよ。
まぁ指定する方も人間ですから、そんな無茶な指定を空気も読まずにするとは思ってないんですが……あー都知事&副知事は空気読まない人だったw

「18禁同人誌の区分陳列」ってなんかおかしくねーか? って話

最後ですが、「表示図書類を販売する書店について」でございます。都内の2 つの書店において、内容のひどい18 禁の同人誌が区分陳列されずに販売されているとの都民の申出でございます。こちらにつきましては、早速この2 店舗に立入調査を行いまして、指定図書類を含めて区分陳列が適切になされていないことを確認しましたので、その場で区分陳列を徹底させたところでございます。

前記事では「通報を元にガサ入れして行政指導しただけ」という流れと説明しましたが、同人誌の18禁ってどこで決めてるんだ?という話が上がっていました。
確かに、審議会は決めていないし、出版社は通してないので表示図書(18禁マークつき)にすることもできません。
ただ「指定図書類を含めて」ともあることから、指定図書がその中に含まれていたので行政指導に踏み切れたということなのかもしれません。同人誌だけの書店というのも東京では珍しくないもののかなり特殊なので。
実際に何が行われたのかは指導された書店のみぞ知る……ということで教えてください。

【追記】問い合わせしたらしい。

おおむね合ってたかな?

「体液」「擬音」「体毛」「器具」とかで判断されなきゃならないのか

他に判断基準がないから、としか。結果としての「指定やむなし」「保留」「非該当」の数値の方がまだ判断材料としてはマシなほうかと。

こちらでは毎度のことですが、この話でよく出てくる「意見」というのは審議会の委員の意見ではなく審議会の会議資料として渡されている「会議資料」にすでに書かれているものです。
これらは審議会の前の日に自主規制団体のメンバーを呼んで開かれる読み合わせによって出席者から出されます。詳しい日時や参加者については、「「東京都青少年の健全な育成に関する条例」に係る事務施行経過」という資料の多くは一番下の日程で書かれています。
資料として出す以上、それなりの指標になるものが必要なためにこのような内容を端的に表す単語が多用されていると思われます。要するに専門用語です。
たまに「セーラー服」や「ナース」に異常反応する人もいますが、「不健全か否か」は非常に主観的なものなので、個人の主観を尊重してあげてください。文句を言うのは自由ですが。

実際の審議でも委員の考えとは合わないことが多く、ひどい場合は槍玉にあげられることがあります。個人的にも意見側より委員側の方が頷けることが多いですので安心(?)してください。


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