2009年4月8日水曜日

今月のBPO(放送倫理検証委員会など)の不定期コーナー

 さて、先月勃発した日テレ「バンキシャ」騒動の審議をした議事概要(議事録ではない)がようやく出ましたよ~。 第23回(2009年3月13日)放送倫理検証委員会 議事概要 http://www.bpo.gr.jp/kensyo/giji/2008/023.html  ところでBPOは東京都のような公的な機関ではないので議事録のような事細かなものを出す義務なんてものは確かにないんですが…… よくある質問:それぞれの委員会の議事録について、全文が掲載されないのはなぜですか? http://www.bpo.gr.jp/bpo/faq/audience/qa019.html
 できるだけ公開をしたいと考えています。しかし委員会では、たとえば、人権を傷つけられたという訴えの内容を詳しく検討することもあります。また、委員会のこれからの検討の方針や方向を議論することもあります。これらの内容をすべて明らかにすると、申立人に迷惑をかけることや、委員会活動が円滑に進まなくことも考えられます。そこで、現在は全文の公開はしていません。
 個人的に突っ込みたいところはいっぱいあるんですが、まぁそういうことにしておいてあげてください。
虚偽証言をスクープとして放送した日本テレビの報道番組「バンキシャ」
 結論:重要な事案であり審理入り。事実関係の調査について初の特別調査チーム編成へ。
<主な委員の意見> * 社内教育が低レベルになり現場の質がものすごく落ちている。これは放送だけではなく活字でも起こっている。メールを送るだけでことが済むという現象が日本の総社会的状況だ。人間的接触の大切さを再認識すべきだ。 * 日本テレビの訂正放送等のコメントを聞いていると、日本テレビが被害者だと思っているのではないかと疑いたくなる。 * 報道番組を作るプロセスが変わってしまった。常駐とは言いながら外部スタッフの比率が高いことは教育問題も含めて大きな問題だ。今の報道番組がどう作られているのか根本部分を洗うべきではないか。 * 日本テレビは検証番組を作るべきだ。 * 民放の制作現場は人、金、モノがますます厳しくなっている。報道番組が増える4月以降、各局にとっても、ますます切実な問題である。 * 情報に対する飛びつき方が浅ましい。何を根拠に信用したかが子供っぽい。裏取りを徹底すべきだ。 * 誰が悪いということではなく、報道現場がいかにグズグズになっているかを検証すべきだ。 * メディアの世界、特にテレビ各局はこの問題に対する危機感が薄いのはなぜか。この放送が原因で建設会社役員の逮捕に至ったのだという認識が低いのではないか。 * なぜ常識的なチェック機能が働かなかったのか。実効的な防止対策が必要だ。
 さすがにこれは動かざるを得ない、といった感じでしょうか。  ただ何というか「日テレだらしねぇな」という雰囲気はあるんですが、それを見せられている視聴者の視点がないような気がします。  委員全員まで「視聴者」になって日テレを批判している様相です。それならもうネットでさんざんやってるからBPOならそれらしい対策を話すべきでは、と言うお話。  特別チームを編成して対応するようですが、すでに何年もズルズルやってる議案も抱えている状態の放送倫理検証委員会。リソースが心配です。
東金市女児殺害事件の容疑者に対する報道について
 結論:放送倫理検証委員会ではなく、対象を容疑者本人に絞って放送人権委員会で審理するのが適当  ※TBSの女性記者が勝木容疑者とカラオケ  まぁ単発の案件としてはそうなんでしょうけど、この間の円天の社長の話とかあったじゃないですか。あれなんかほぼあからさまに容疑者ですよね。先月の意見にもあったし。 と、その放送人権委員会の方でも大きな動きがありました。  ※BPO:テレ朝に勧告 「報ステ」野中氏報道は「倫理違反」
 問題とされたのは、徳島県の阿南東部土地改良区の横領事件を伝えた際、全国土地改良事業団体連合会(全土連)の会長を務める野中広務元自民党幹事長の映像を使い、そのあと評論家が「政治力で新たな事業を改良区に与えている」などと発言した点など。放送後、野中氏は放送人権委に「事件と全土連が関連があるかのように作為的な報道がなされた」と申し立てていた。  放送人権委は、放送内容は真実と信じる相当な理由があったとして野中氏の名誉棄損は否定。一方で映像は「一部の視聴者に、あたかも申立人(野中氏)が政治力で膨大かつ不要ともいえる事業を持ってきたという認識を生じさせた」とし、安易、短絡的と批判した。さらに古舘伊知郎キャスターが「(補助金が)じゃぶじゃぶ使われているきらいがある」と発言した点も「裏付け取材の範囲を超えている」と判断した。
 ということで読んでみました。長くて嫌になるのでわかる部分で組み立ててみます。(全文解説じゃないですよー)  第39号 徳島・土地改良区横領事件報道 http://www.bpo.gr.jp/brc/decision/031-040/039_k_ex.pdf(PDF)  ちなみに決定としては勧告:重大な放送倫理違反(補足意見・少数意見付記)これまでの委員会決定の中でも「放送倫理違反」としては最も重い決定。委員会史上では2回目。
それぞれの言い分
申立人(野中広務氏)の言い分 報道内容の間違い(①)
 上記『報道ステーション』における報道(以下、「本件放送」という。)には基本的な間違いがある。ナレーションで「去年まで総額120億円もの事業を手がけていた。その9割が国や県からの補助金だった。」としているが、阿南東部土地改良区(以下、「本件改良区」という。)が自ら事業主体となって、120億円もの事業を手がけた事実は存在せず、したがって、国や県からの補助金としてその9割に当たる100億円以上の金員が当該改良区に交付されたという事実もない。
名誉毀損について(②)
 あたかも、申立人が政治力で不要な事業を持ってきて、その投入された莫大な補助金が犯罪発生の原因となったかのような作為的な構成の報道内容となっている。報道内容はそもそもの基本において誤報であるとともに、犯罪とは何の因果関係もない申立人等の名誉と信用を著しく毀損するものである。
肖像権の侵害(③)
 被申立人は全土連事務所の建物の外観や入り口を無断で撮影した。また、2007年4月の段本幸男参議院議員の集会における申立人発言の映像について、事前の使用許諾もなく今般の横領事件の報道において使用したことは、使用許諾の手続き、および放送倫理の両面から問題があり、申立人の肖像権を侵害するものである。
被申立人(テレビ朝日)の言い分 報道内容について(①)
 放送当日、徳島県への取材で、税金を原資とする一部資金が横領された可能性が高いと判断したが、放送後改めて取材したところ、ほ場整備事業と並行して進められた河川改修事業に伴い、地権者が提供した土地の取得代金が当該土地改良区に支払われ、巨額の資金がプールされていたことを確認した。
 後になったとはいえ、間違いは認めるわけね。【①終了】 名誉毀損について(②)
 放送の趣旨は、横領事件の経過を伝えるとともに、政治と農政の関わりや杜撰な監査が放置されてきた土地改良区のあり方について問題提起したものである。したがって、今回の横領事件と全土連、全土連の野中会長を結びつける意図は全くなく、野中会長の名誉・信用を毀損したとは考えていない。
 お金の動きを勘違いしてできた内容だけど、これは徳島の6億円横領の背景であって、全土連や野中氏を何かの犯人にしたわけではないという主張かと。 肖像権の侵害について(③)
 公道から建物の外観を撮影することについては、当事者の許可は不要と考える。また、入り口は全土連担当者の許可を得て撮影した。  段本幸男氏は土地改良区と関わりの深い「全国土地改良政治連盟」の支援を受けており、政治と農政との関わりを表現するための映像素材として、野中氏の映像と発言を紹介した。全土連という公的な団体の会長である野中広務氏の肖像権を侵害したとは考えられない。
 なんかGoogleみたいな言い分が聞こえますが、必要な許可はあるし、公人の画像について公正な目的で使ったから問題ないらしい。
審理入り
 ということで、審理に入ったわけですが、正直ホントに推理クイズのような中身になってます。  たとえば「わずか6人の職員しかいないこの組織。しかし、去年まで総額120億円もの事業を手がけていた。その9割が国や県からの補助金だった。」というナレーションについては、
 本件改良区が総額120億円を超えるほ場整備事業に関わっていたとコメントすることについても、誤りであるとはいえない。
 この120億9100万円のうち、国の補助金と県や市の負担金の割合は87.5パーセントであることからも、明らかな誤りであるとはいえない。
 本件改良区の事業に参加する多数の組合員の事務を担ってきたのが6人の職員だったのである。(略)本件改良区が「総額120億円もの事業を手がけていた」とのナレーション部分も、明らかな誤りであるとはいえない。
 などなど(省略されてるよ)事細かに分析されて、さらに後で違う事実が明らかになった点も……
 そもそも、テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、新聞記事等の報道の場合と同様に、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきであるとされる。
 テレビジョン放送においても、このような摘示事実の真実証明や相当性の証明については、それぞれの摘示事実を個別具体的に証明することが否定されているわけではないし、妥当性を欠くわけでもない。
 となんか開き直られてしまいました。結局、
したがって、当委員会は、本件摘示事実と意見については、いずれも申立人の名誉を毀損しないものと判断する。
とバッサリ。【②終了】  でもこれおかしい、と思った人も多いはず。BPOは裁判所じゃないのでもともと名誉毀損を判定できる機関ではないのだから……  そう考えると③の肖像権侵害もやってられない話ということに(もちろん肖像権の侵害は認められませんでした【③終了】)  さらに少数意見として「この番組はやはり申立人の名誉を毀損している」という意見も複数あったりする。  (この文書も至る所に判例が引用されていて読みづらくてたまらない)  ゆえに本来は3つの申し立てのうち、①についてしか審理の意味がないはず(不服なら裁判に行っちゃうから)  だいたい法律を知っている申立人が名誉毀損を出してBPOに番組の謝罪を求めること自体がおかしかったりする。放送局って直接裁判で訴えちゃいけないんだっけ?  ものすごく理由になりそうなのは…… よくある質問:申立てには費用がかかるのですか? http://www.bpo.gr.jp/bpo/faq/committee/qa011.html
 無料です。
4つ目の議題?
 そして問題はここから。争点が3つだったはずの申し立てになぜか4つ目の議題が
 以上のとおり、本件放送は、申立人の名誉権、信用及び肖像権を侵害するとまではいえないが、申立人は、被申立人に対し、今後は放送倫理を遵守し、事実関係をきちんと確認した正確な取材に基づき報道にあたることを指摘し、もって放送倫理違反を主張するので、以下、この点について判断する。
 どうしても申立人はテレ朝に一矢報いたいらしい?  とはいえ、放送倫理違反は放送倫理検証委員会の方が適切なんじゃないの? そのまま放送人権委員会で審理していいの?  放送倫理検証委員会は2007年にできたんだけどどうもこの辺の区分けができていない雰囲気。最初から放送倫理違反で人権委員会に申し立てして審理入りしてるのもあるし。  そしてここから事態は急展開へ……
 全土連会長である申立人の社会的評価の低下がある場合に、これが真実又は真実と信ずるについて相当の理由があるとしても、申立人の上記「励ます会」での発言の際の映像を用いることによって、本件放送内容全体から受ける印象において、一部の視聴者に、あたかも申立人が政治力で膨大かつ不要ともいえる事業を持ってきたという認識を生じさせたことについては、全土連の政治力を印象付けることが目的であったとしても極めて安易で、短絡的であるとの批判を免れない。さらにキャスターが本件放送の最後の締めとして「じゃぶじゃぶ使われているきらいがある」と指摘した点について、これが申立人に対する人身攻撃に及ぶ意見ではないものの、被申立人の本件放送当時の裏付け取材の範囲を超え、断定的に、一般の視聴者にすべての補助金が適正に使用されていないのではないかという認識を与えかねない不適切な表現であると言わざるをえない。
 ここで初めて古館の発言が出てくるわけで。
 また、本件放送後、3度にわたり被申立人の役職員が申立人に対し釈明し詫びていることも、被申立人において申立人の発言の映像を用いたことについて配慮が欠けていたことを自認しているものと認められる。
 事故っても謝っちゃいけない保険屋さんですか? というか謝って済まない申立人が裁判じゃなくてBPOで何がしたいのかレベルが高すぎてわからない。
 よって、当委員会は、被申立人が本件放送の全体の構成と、とりわけ申立人の発言の映像を安易に用いたことや、キャスターが最後に「じゃぶじゃぶ使われているきらいがある」などと指摘した点において、申立人の名誉毀損をきたしかねない放送倫理違反があったと認定する。
 かくして、テレ朝は謝罪放送を流すことになったわけです。  ※テレ朝が誰もいない早朝に謝罪  こうやって読んでみたんですけど、この件に関してはなんか古館さんがかわいそうです。  番組のメインキャスターとしての責任はもちろん取るべきなんでしょうけど、番組で見せられた映像に感想付けたらそれが「重大な放送倫理違反」ですよ。ほとんど本人に言わせりゃ「しゃべる放送倫理違反」状態じゃないですか。いや間違ってないとか言う意見もたぶんあるけど。  本編のソースがみたいなぁ……(報道ステーション見られないのよここ)

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