2009年7月18日土曜日

「TBSテレビ『ニュースキャスター「二重行政の現場」』に関する委員長談話」を読む。

まずは該当番組のとある部分とそのあらましについて。
「これが二重行政の現場」…実はTBS依頼でやっただけ(2009年4月26日 朝日)
府道路環境課によると、国道との交差点の維持管理は国の管轄。だが、業者は通常、効率を考えて国道との交差点もブラシで清掃していた。  TBSの取材を受けた業者によると、取材当日、番組スタッフから「交差点でブラシを止めてくれないと取材にならない」と依頼され、府鳳土木事務所(堺市)に電話で相談。担当者から「歩行者の安全対策でブラシを上げることもあるから協力して」と言われ、依頼に応じたという。
TBS広報部は「府への取材で、国道に入ると清掃車のブラシを上げると聞いた。国道との交差点でもそうだと思い込み、業者に『正式なやり方を撮りたい』とお願いした」と説明した。  放送を見た近畿地方整備局が17日に「事実誤認」と文書で指摘。TBS側は21日付の文書で通常の作業ではなかったことを認め、「視聴者にすべての交差点で同様の事例が起きているような誤解を与えかねない表現でした」と回答。そのうえで、TBS広報部は「やらせとは言えないと思う」と説明している。(渡辺哲哉)
さて、もはや珍しくもなくなった話ではありますが、こんな感じに処理するようです。
TBSテレビ『ニュースキャスター「二重行政の現場」』に関する委員長談話を発表 http://www.bpo.gr.jp/topics/2009/20090717.html
この事案については、5月15日開催の第25回委員会で、TBSテレビに対して質問状を出すことを決定し、6月12日の委員会で、同社から提出された回答をもとに討議を行いました。その一方で、委員会が検討している最中の6月5日に、総務省が当該事案についてTBSに行政指導を行いました。委員会は7月10日開催の第27回委員会で、同事案について審議入りしないことを決定いたしました。
 こうした討議の経緯を踏まえて、当委員会からの質問とTBSテレビからの回答とあわせて、審議入りしない理由等に関する委員会の考え方を「委員長談話」のかたちでまとめました。
見事にスルーされてしまいました。経緯は資料を読んでいただくとしてまずはTBSの回答から
ニュースキャスター「二重行政の現場」についての回答 (TBSテレビ、2009年6月26日) ttp://www.bpo.gr.jp/topics/images/090717TBS_Anser.pdf
上記朝日記事にある「文書」とは別の「BPOの質問書」に対する回答。
BPOの質問だけとりあえず抽出すると……
質問1  番組では、二重行政の問題例として、国道と府道の交差点での清掃作業を紹介しています。担当ディレクターは、大阪府に対する事前取材で、「国道と府道の交差点では清掃車のブラシを上げるのが“正式な方法"との認識を持った」とのことですが、いかなる経緯でそういった認識に至ったのでしょうか。
質問2  取材当日、大阪府に対し“正式な方法"についての確認を清掃業者に依頼しています。担当ディレクターが、自ら確認を行わなかったのは何故でしょうか。  
質問3  担当ディレクターは清掃業者から国道と府道の交差点で、「ブラシを上げることは効率の点から普通はしない」旨の話を聞いていながら、撮影に際し「ブラシを上げた作業」を依頼しています。また、業者に対するインタビューにおいても、通常行われていない作業方法を“正式な方法"であるかのように説明させています。その意図はどこにあるのでしょうか。  
質問4  国道の管理者である国(国土交通省)側にインタビューを申し込んだが取材日の調整がつかなかったとのことですが、テーマが二重行政でありながら、一方の当事者である国に取材がなされないまま放送に至ったことについてどうお考えでしょうか。  
質問5  番組制作過程において、これまでお聞きした疑問点を含め、チェックはどのように行われたのでしょうか。  
質問6  4月25日のお詫び放送では「行き過ぎた表現」「誤解を与えかねない表現」と説明していますが、委員会は「事実に反した表現」「誤解を与えた表現」ではないかと認識しております。いかがお考えでしょうか。  
質問7  貴局は、この番組における取材制作上の問題点は何であったと認識されていますか。  
質問8  今後、このような問題を再び惹起しないために、どのような改善策を実行するお考えでしょうか。

これが出されることになった第25回 放送倫理検証委員会(2009年 5月15日(金)開催)の議事概要を見てみると……
  http://www.bpo.gr.jp/kensyo/giji/2009/025.html#04
4. 道路清掃をめぐる二重行政問題を取り上げたTBS『情報7daysニュースキャスター』
 大阪府の府道と国道との交差点で、大阪府の清掃車が国道を横切るときに、清掃用のブラシを上げて国道は清掃しないようにして通行する映像が二重行政の象徴的なシーンとして放送された(4月11日)。しかし、通常はこのような方法は行わず、TBSの依頼による動作だったことが分かった。TBSも行き過ぎた取材であったことを認め、2週間後にお詫び放送を行った(4月25日)。  
委員会はTBSが作成した報告書を検討した結果、改めて同局へ質問書を出し、その回答を受けて引き続き検討することにした。
事実関係の記述のみで委員会の認識など一切なし。  
まだ審議入りするかどうかを審議している段階で、意見も何もないのはわかるんですが……  
さて切り替えて本命の「委員長談話」を見てみると……

TBSテレビ『情報7days ニュースキャスター「二重行政の現場」』について(放送倫理検証委員会委員長、2009年7月17日)  http://www.bpo.gr.jp/topics/images/090717TBS_Danwa.pdf
2.委員会の結論
 大阪府の清掃車は、通常、府道と国道の交差点でわざわざブラシを上げて横断するようなことはしていないし、ブラシを上げて横断するために交差点の手前にゴミが残り、その清掃が必要になるという事実もない。従ってこの番組が報じた内容が事実に反するものであったことは明らかである。 しかしながら委員会は、この番組について審議の対象としないこととした。事実に反する報道が放送倫理に違反することは明らかであるから、それにもかかわらず委員会が審議して意見を公表する必要を認めなかった理由について説明しておく必要があるであろう。
放送倫理違反に値すると認めていながら、審議しないから理由を説明する必要があるほどこれは黒ってことですね(曲解)
以下理由が示されますが……
第一の理由は、問題の小ささである。  
この番組は、国と地方自治体の二重行政によって無駄が発生しているという問題を追及するために制作されたものであるが、TBSテレビが回答書で自認しているように、番組が本来追及するべきテーマは大阪府内の府道と国道の道路維持管理を府か国が一元的に行えば概算で6億円の予算を削減できるということである。このことから言えば全く適切でない例を取り上げたことにこそ、最大の問題があると言うべきである。府道と国道の交差点で大阪府の清掃車が国道部分も清掃していようと清掃しないで通過していようと、二重行政の無駄を象徴する例としては適切であるはずがないのであり、結果としてこの番組は、そもそもどちらでもいいような些末なことがらについての報道になってしまっている。
しかしながら委員会は、このような小さな問題についての誤りまでをことさらに取り上げて審議するまでの必要性を認めなかった。なお、映像優先の演出の問題点自体は、テレビ朝日の『報道ステーション』マクドナルド元従業員制服証言報道に関する意見(委員会決定03号)をはじめとして、すでに委員会が何度も指摘したことである
まずは問題の規模が小さい&そしてすでに指摘済みの内容であること。  
何をもって「小さい」のかが具体的に示されていないけど、あえて具体的にしない方がいいのかな。  
要するに「ブラシの上げ下げ」という画像はそれが正しかったとしても「二重行政の象徴」として全く関係がないということらしい。  
確かにブラシの上げ下げで6億円が節約できるとは思えないが、府と国が道路を一元化することでまず清掃車の数が減るだろうなぁ。
第二の理由は、TBSテレビの詳細な回答書から明らかなように、このような誤った報道に至った経緯、担当ディレクターが誤った認識を持った理由、それをチーフディレクターや制作プロデューサーがチェックできなかった理由が、すでに当該局自身の調査によって解明されていることである。
放送の過ちは、まず、当該局がその過ちを自覚し、その原因を自ら究明し、再発防止策を策定して実施することにより、自主的・自律的に是正されるべきものである。なんと言っても当該局の真摯な反省と改善に向けた取り組みこそが、最も効果的に番組内容を向上させるのである。もちろん委員会は、過ちをおかした局の取り組みが不十分であるときや事案の内容が重要であるときは、放送倫理の維持向上を任務とする第三者機関として、委員会の「意見」を公表し、あるいは「見解」を述べ「勧告」を行うのであり、そのことについてはいささかの躊躇もない。しかし、それほどの重要性を持たない事案については、既に当該局の自主的な取り組みが十分に行われているときにまで、さらに審議の対象とする必要は基本的にないと考える。
2つ目にTBSがこれが問題であると認識しており、すでに対策も提出している(回答書参照)局として自律しているのでこれ以上委員会がこれを問う必要性がないということらしい。  
まぁわからないでもない(どうせ審議しても同じ結論出して終わってしまう)けど、じゃあなんで一度起こったことが繰り返されちゃうんでしょうねぇ……  
本当にこれが理由ならいつもの議事概要の中で「審議入りしないことにした」で済む話で談話なんか出す必要ないじゃん、と思ったんですが。真意はおそらくこの後にあったのようで。
この意味で、委員会は、この番組について当委員会が討議中であるのを知りながら、総務省が6月5日に厳重注意の行政指導を行ったことについては、重大な懸念を抱かざるを得ない。言うまでもなく総務省は、当委員会とは比較にもならない強大な行政権限を放送局に対して持っているのであり、その指導がもたらす表現の自由の萎縮効果について一層慎重な配慮をするべき立場にある。従って、少なくとも放送界側の自主的・自律的機能の十全な発揮が期待出来る限り、その結果を基本的に尊重することが、総務省のあるべき態度なのではないだろうか。
BPOが大嫌いな総務省が審議入り審議中に行政指導を出していたのでした……  
例によって放送の自主規制団体として機能しているはずのBPOは放送と表現の自由を脅かすとして公権力の介入をとことん嫌います。  
総務省、TBSに厳重注意 報道に「重大な過失」(2009年6月5日 朝日)
番組は4月11日に放送。国道と大阪府道の清掃作業をめぐって、通常は行っていない作業を業者に依頼。国と地方の「二重行政の現場」として報道した。総務省は事実を正しく報道していなかったと判断。放送法に抵触する疑いがあり、「番組編集で求められる注意義務を怠る重大な過失があった」と結論づけた。あわせて再発防止策を3カ月以内に提出するよう求めた。
今回の報道で損害を被ったのは一方的に国なわけで、事実と違う報道で批判されてそれなりの意思を示す権利はあったわけです。行政を歪曲して報道しておいて行政に何も言われないとでも思っていたのでしょうか。つーか取材した大阪府や国には謝りに行ったのかな?  
「放送界側の自主的・自律的機能の十全な発揮が期待出来る限り」ってすでにどれだけの人が期待してるのやら。    
関係あるとは思えないけどこの段階ではまだ鳩山大臣だったんだよなぁ。郵政じゃなくこっちとケンカしてほしかったな。無理だろうけど。  

総務省の行政指導にBPO「懸念」 TBS情報番組巡り(2009年7月17日 朝日)
NHKと民放でつくる第三者機関、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会は17日、情報番組「情報7days ニュースキャスター」で通常はしていない道路清掃の作業を放送したTBSテレビに対し、総務省がBPOの結論を待たずに厳重注意をしたことについて「表現の自由の萎縮(いしゅく)につながる。重大な懸念を抱かざるを得ない」とする異例の委員長談話を発表した。
「情報7days」について委員会は今月10日、作業が通常通りだったかどうかは本質的問題ではない、などと判断。「BPOが意見を述べるべき問題点は残されていない」と結論づけている。

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